星野源『ドラえもん』感想

 2018年2月28日、星野源のニューシングルである『ドラえもん』がリリースされた。表題曲は、『映画 ドラえもん のび太の宝島』の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。また、カップリングとして収録されている『ここにいないあなたへ』も、同映画の劇中歌として使用されている。

 

f:id:pa-nya-nyan:20180306220748j:plain

 

 まず、「星野源の新曲が劇場版ドラえもんの主題歌に決定」というニュースを見て、そんなの聴くまでもなく国民的なヒットソングになるじゃない!ズルいよ、反則だ!と真っ先に思った。そしていざ曲名が発表されたと思ったら『ドラえもん』ときた。いや、それもう犬にポチって名前つけるより5億倍直球で、真っ直ぐすぎてむしろ曲がって見えるんですけどって感じだ。しかも普通のアーティストの場合、タイアップの作品に寄せすぎたタイトルやフレーズを作ると、誤解を恐れずに言うのであれば、大抵めちゃダサになるのがセオリーだが、残念なことにこの曲はそうはなってない。いや、ダサいといえばダサいのだけど、それすら大衆性としてポップなところに着地させていているのだ。これは、「星野源×ドラえもん」という、今をときめく大スターと、もはや血液レベルで日本人に染みついているであろうアニメとのコラボレーションだからこそ生まれた稀有な化学反応だろう。逆に言えば、いま日本でこの化学反応を成しえるのはこの組み合わせしかないくらいだと思う。そしておそらく星野源は、日本における今の自分の立ち位置を自覚して、今の立ち位置なら出来るという確信の下、この曲を作っていそうなところがまためちゃくちゃに憎いところだ。

 

 ここまでの前提条件だけでめちゃくちゃに間口の広くなりそうなこの曲だが、楽曲の力がそれを更に四次元のごとくおし広げている。間口を広げている要素は、当然といえば当然だが、歌詞とメロディだ。

 

 歌詞は<落ちこぼれた君も 出来すぎあの子も>とか<拗ねた君も 静かなあの子も>のように、それこそドラえもんのライトなファンもすぐに気づくようなものから、<少しだけ不思議な 普段のお話>とか<台風だって 心を痛めて 愛を込めて さよならするだろう>のように、コアなドラえもんファンも思わずにっこりしてしまうような歌詞まで、誰もが親しむことが出来るような仕掛けがしてある。また、サビの最後にくる<どどどどどどどどど ドラえもん>なんか、ドラえもん最大のターゲットであろう子どもにぶっ刺さりそうなフレーズだ。

 

 メロディものっけから「笑点」感満載の少しどころかめちゃ不思議だけど人懐っこいリフでリスナーの心をつかんだと思ったら、サビでは星野源の中でも飛びぬけて分かりやすくポップなメロディになったり、しまいには間奏にあの曲のメロディが差し込まれていたりと、もうやりたい放題だ。それでも全体としてのメロディは破綻していないどころか最高のポップソングに着地しており、星野源のコアなファンの心も掴むものになっているはずだ。

 

 こんな風に歌詞もメロディもやりたい放題にやった結果、星野源のライトなファンからコアなファン、ドラえもんのライトファンからコアファン、子どもから大人と、全日本人を巻き込む方向へ恐ろしいほどに間口が広がった曲になっている。

 

 そして、間口が広いということとほぼイコールではあるが、この曲は仲間はずれをつくらない歌となっており、そこがドラえもんの物語とも上手くリンクして、この曲をドラえもんの主題歌たらしめていると思う。その最も象徴的な歌詞が<何者でもなくても世界を救おう>だ。自分を含め、世の中大抵の人間は何者でもない普通の人間だ。ドラえもんに登場するキャラクターだって同じように何者でもない普通の人間だけど、何かを救うために奮闘して輝いている。そんな風に誰だって何かを救い、どこかの世界の主人公になれるのだという部分を、このフレーズはズバリと言い当てているように思う。だからこそ、この曲はドラえもんそのものと同じように仲間はずれを作らない空気感をまとったものになっているのだと思う。

 

 これだけ間口が広くて仲間はずれを作らない曲だ、きっと2018年代表するような国民的ヒットソングになるのだろう。『SUN』以降、世の中からの期待に答えつづけ、『恋』で頂点を迎えたように見えたこのタイミングで、更にこの曲を出してくる彼がもはや恐ろしい。しかし、それらの曲が1枚のアルバムに入って発売されることを想像しただけで今からワクワクが止まらない。星野源の一人勝ち独走状態は、しばらく終わることが無さそうだ。

 

   

www.youtube.com