『MODE MOOD MODE』全曲レビュー 前編

 めちゃくちゃ 早いもので、UNISON SQUARE GARDENが7thアルバム『MODE MOOD MODE』をリリースしてから3週間が経ちました。

 

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 そんな訳で、このアルバムの全曲レビューをだらだらと書いてみました。レビューというほど大層なものでもないですが・・・。そして書いてみたはいいものの、めちゃくちゃに長くなったので、6曲ずつ2回に分けて投稿します。文章長くなってしまうの本当にやめたい。てことで、分量少なめのアルバム通した全体の感想も別で書いておりますのでそちらもまた適当に投下しますね。ではでは、1曲目からいきまーす。

 

1.『Own Civilization (nano-mile met)』

 前作『Dr.Izzy』の『エアリアルエイリアン』のような立ち位置の、「え?何これ?」枠な楽曲でアルバムが開幕。冒頭で「7枚目っ!」と聞こえて頭抱えて笑いましたが、このタイプのギミックもお馴染みになってきましたね。この曲、これまでのユニゾンのイメージからかけ離れまくっているグランジ感満載のサウンドに対する驚きもさることながら、それをまるで本物っぽくかつユニゾンらしさも残して歌いこなしてしまう斎藤の歌にまず驚きました。特にAメロは、これまで曲で出こなかったタイプの歌い方のレパートリーだったので「こんな歌い方もできちゃうのか・・・」とただただ感服。

 歌詞については、『シュガーソングとビターステップ』以降、徐々に世間に受け入れられてきた状況に対するカウンターというか、観客と馴れ合いのコミュニケーションはしないんだ、自分たちが築いてきた『Own Civilization』と今の状況にズレが生じていないか都度確かめながらやっていくんだみたいなニュアンスを感じました。サウンドこそ変化球ですが、言っていることはいつものユニゾンで「あ、変わってないな」とある意味安心できる楽曲でもありました。

 

2.『Dizzy Trickster

 1曲目とは対照的にサウンドから「これぞユニゾン!」な楽曲。涙腺を刺激されるメロディと、ちょっとロマンチックでありながら、つかず離れずの適度な距離感を保った歌詞。聴く人それぞれに「これぞユニゾン!」っていうタイプの曲があると思うのですが、この曲に関してはもう大方の人が諸手を挙げて「これぞユニゾン!」と言えるタイプの曲じゃないでしょうか。個人的にはAメロの歌詞(特に1番)とメロディが好みど真ん中で、聴くたびに天を仰いでガッツポーズです。

 そんなこの曲を聴いて真っ先に感じたのが、1曲の中で視点がコロコロ変わっているなということです。具体的にいうと、「ロック大好き少年の田淵智也(観客側)」と「UNISON SQUARE GARDEN田淵智也(演者側)」が1曲の中で行ったりきたりしているように思えるのです。例えば、1番Aメロの<ああ上手に準備されたユートピアに浸って帰り道につけば 悲しいは微塵すら無いのだけど 無いのだけど依然体制異常なしだなんて わがままが芽生えたんだ>は、演出過多なライブを観客側の視点から捉えている表現に見えます。そこからBメロ、サビの前半までは観客視点の歌詞が続きます。しかし、1番サビの後半あたりから様子が変わります。具体的にいうと<まだわかんない言語化不能の断片たちを連れていこうか 席はちゃんと空けておくから 間に合わないなんてないんだよ この高揚感は誰にも奪えない>のあたりから、そこまでの歌詞で描かれてきた「Dizzy Trickster」に影響を受けたUNISON SQUARE GARDEN田淵智也の視点が入ってくるのです。そこから2番の終わりまでは演者側視点の歌詞が続きます。そして、Cメロ以降は視点がごちゃ混ぜになった歌詞になっていきます。観客として「Dizzy Trickster」に影響を受け、端から端までその血が流れているし、その世界に浸っていたいし追いかけて続けたいけれど、演者としてそれだけでは成立しない。演者として独自性を出しながら一人で走っていかなければならない、そんなことを歌っているのかなと思います。

 順を追って整理すると、1番が「Dizzy Trickster」との出会い、1番後半~2番が、「Dizzy Trickster」に影響を受けたUNISON SQUARE GARDEN田淵智也の演者としてのお話、Cメロ以降は演者になった今もなお観客として「Dizzy Trickster」に影響をうけつつも、自分たちの道を進んでいくお話。と、僕はそんな風に解釈しました。歪な解釈かもしれませんが、責任を問われることも無いようなので笑。

 話が少しそれますが、この曲の1番Bメロで<差し出された手は掴まなかった>という歌詞が出てきます。また、1曲目の『Own Civilization』でも<差し出された手は噛み千切るけど>という歌詞が出てきます。この2つの歌詞、一見同じようなことを言っているように見えますが、ここまで書いてきたことを踏まえると視点が逆っぽいなと分かると思います。前者は観客側の視点、後者は演者側の視点ですね。だからなんだという感じですが、ユニゾンが後者のようなスタンスになったのは、前者のようなスタンスを観客としての田淵が持っているからなのかなと思います。

 

3.『オーケストラを観にいこう』

 オーケストラサウンドがガッツリ入っているハイパー甘々ポップな3曲目。田淵曰く、このアルバムの軸となる曲2曲のうちの1曲とのこと。今回のアルバムの意図は、無骨なサウンドな楽曲が多かった前作『Dr.Izzy』で「やっぱユニゾンは変わんないよね」と安心したファンに揺さぶりをかけることであり、その意味で、3曲目というメインの位置にバキバキのオーケストラサウンドが入ったこの曲が置かれているのは超納得。1番Aメロなんかはギターの音だけで真夏の青空の映像が頭に浮かんでくるのでそれはそれで秀逸なのだけど、サビ以降でオーケストラサウンドが入ってくることによって、この歌で描かれている物語の甘さがよりくっきり鮮明に表現されているかなと思います。

 この曲、おそらくラブソングだと思うのですが、ユニゾンの作るラブソングを聴くたびに感じることをこの曲でも感じました。それは、恋愛の明るくて綺麗な部分のみに焦点が当てられているということで、それ故に、ラブソング特有の「人間臭さ」みたいなものがほとんど無いのです。世間一般的なラブソングはおそらく「人間臭さ」に焦点が当たるほどリスナーの共感を得やすいため、ユニゾンのラブソングを聴いて「共感した!」という感想を持つ人は多くないのかなと思います。しかしその代わりに、少女漫画を読んでいる時のような独特の高鳴りみたいなものがあったりして、その温度感が好きな人にとってユニゾンのラブソングはドストライクなのかなと思います。同じようなアプローチでラブソングを書いているアーティストもあまりいないような気がするので。この曲で言うと、2番Aメロの<何気なく差し出され何気なく取ったチューインガムのフレーバー どうしてかな 書いてある果物とは違う甘い香りだけが横切った>の部分が1番象徴的にその温度感を表しているかなと思いました。現実にありそうでほとんど無い、絶妙に少女漫画チックな歌詞だなと思います。個人的にはサウンド、歌詞の雰囲気ともにめちゃくちゃ好きなタイプの楽曲です。

 

4.『fake town baby

 シングル4選手の先陣を切って登場したのが『fake town baby』。はっきり言って全くの想定外で、7曲目前後に入ると勝手に思っていました。そんな思い込みもあり、1周目はこの位置にこの曲がきている事実に全く納得感が無かったのですが、聴く回数を重ねる度に、『fake town baby』はこの位置しかないと思うようになっています。納得感が無かった理由は2つ。1つは過去のアルバムが1~3曲目である種完結していて、4曲目からアルバムの流れが変わる仕様になっていたこと。もう1つが、『fake town baby』のようなロック色強めの曲はこれまで後半に収録されていたことです。しかし、3曲目のポップ色がかなり強いこと、1~3曲目に4番打者的な強さを持った曲が無かったことを考えると、ここで『fake town baby』を持ってきて、これまでとは違う、1~4曲目という塊で序盤を完結させるのが最適解なのかなと腑に落ちました。

 曲についてはこれまであったロック色強めな曲(『セレナーデが止まらない』、『パンデミックサドンデス』的な曲)と近いのですが、それらの曲には無かったキラキラ感があったり展開がぶっ飛んでたり、英詞が混ざってみたりと、シングルならではのおもちゃ箱ひっくり返したようなカオスな遊びがあって、これまでの同じタイプの曲とは完全に一線画してるかなぁと思います。この曲、色々カオスなんですが、最終的にはロックなようでかなりポップなところに着地している気がするので色んな場面で演奏されていく曲になるんだろうなぁと今から楽しみです。

 

5.『静謐甘美秋暮叙情』

 疾走感満載な流れも一旦ここで一区切り。このアルバムをまず1周したときに1番衝撃を受けて耳に残った曲がこれです。シティポップとかAORとか、そういったジャンルの大人な雰囲気を感じる曲ですね。サビの裏メロで鳴ってるギターの音とかギターソロの音とか、ただただ大好きです。

 この曲、そんな大人びたオシャレサウンドも魅力なのですが、歌詞もまた最高に魅力的なのです。全体通してすきなのですが、個人的に特にぶっ刺さったのが<frame out 両手にあった景色が零れてしまう程なく溶け出す淡い眩暈>という1番サビの歌詞です。一見意味不明なのに深読みしようとすればいくらでも出来て、なおかつ声に出したくなる気持ちよさもあって、1番好きなタイプの歌詞です。個人的にこの歌詞は「今まで当たり前のようにあったものが無くなったことに気づいて涙する様子」と解釈しました。もし仮にそうだとしたら、その状況をこの言葉に変換できる才能ってどこで身につくんだろうと真剣に羨ましい気持ちでいっぱいになります。そしてそしてこの一節、斎藤の歌の表現力が爆発しています。特に「眩暈」の歌い方、視界がぼやけていくさまがものすごく伝わってきて、歌で表現できることってたくさんあるんだなあと、ここでもただただ感服でした。ライブで聴くのがとにかく楽しみな1曲ですね。ギターとかどうするんだろうか・・・。

 完全に余談ですが、この曲が好きな人は是非下にリンク貼った曲聴いてみてください、もしかしてもしかすると、ドハマりかもです。

 

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 6.『Silent Libre Mirage

 前曲からほぼシームレスで始まるシングル4選手の2人目。完全に2曲目にくると思ってましたがこの曲もこの位置で大正解ですね、悔しいですが。重くもなければ軽くもない、アルバムの中のお口直し的ポジションとして最適な曲だなあと思います。シングルなだけあって歌詞は結構自分たちのスタンスを強めに宣言してますが、強すぎないちょうど良い塩梅だなあと。こういう爽やか美メロで言葉がスルスルと流れていくようなタイプ曲、ユニゾンの中でもかなり大好物なので、アルバムで初聴きだったらおそらく1番好きになっていた可能性ある曲です。やっぱりシングル曲とアルバム曲は聴いてきた回数もハードルの高さも違うし、どうしても同じ土俵で比べるのが難しいなあと思いますね、比べる必要は別にないと言われればそれまでですが。ところで2番のあそこの歌詞は誤植ですかね?あの漢字をあえて使ってるの、めちゃ好きだったんだけどなあ。

 

 てことで、以上前半6曲の前曲レビューでした!後半6曲は近いうちにまた投稿しまーす。