UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2017-2018「One roll, One romance」@幕張メッセ国際展示場1-3ホール 

 2018年1月28日、「One roll, One romance」のツアー千秋楽が千葉県の幕張メッセ国際展示場1-3ホールで行われた。UNISON SQUARE GARDENにとっては過去最大規模のワンマンライブである。

 

f:id:pa-nya-nyan:20180203230941j:plain

 

 バンドの舵取りである田淵(Ba./Cho.)は、自身のブログやインタビュー各所で幾度となく「大きい会場ではやりたくない」と発言していた。その真意はおそらく2つあって、1つは「遠くへ行ってしまった」と思うファンが出てきてしまうこと、もう1つは目立つことで今までのようなある種やりたい放題で自由な活動に支障が出ることであろう。しかし、そうばかりも言っていられないくらい、キャパ2~3,000の会場でのライブを彼らの体力がある限りで切ったとしても追いつかないくらい、彼らのライブに足を運びたいと思う人は増えたのだ。その結果に対して彼らが出した一つの答えが、今回の千葉公演の開催だったのだろう。自分たちの信念よりも「観たい人に機会を与える」方を選んだという訳だ。自分自身、ユニゾンを大きな会場で観ることに対する抵抗はあまり無かったのだが(幕張埋まるの?という不安はあったが)、やはりユニゾンがこれまで貫いてきた信念からずれる今回の公演に違和感や不安感を覚えるファンがいるのも同時に理解していた。だからこそ、「大きな会場で行うライブ」ということ対して、彼らがどういう答えを出すのかという不安を抱えながら会場へ向かった。結論から言えば、ただただ杞憂だった。会場の大きさこそ彼らの方針からずれてはいたが、アクト自体は何一つ変わらない、彼らの本質は何一つ揺らぐことないライブだった。

 

 開演時間から10分程度過ぎたタイミングで、会場の照明が落とされ、ものすごい歓声が起きた。武道館公演のときの歓声も震えるくらいだったが、今回はそのとき以上に観客の期待感が爆発していた歓声だった。彼らのライブを楽しみにしている人が自分以外にこんなにもたくさんいるのだなと肌で感じ、まだ始まってもいないのに既に感極まっている自分に少し笑ってしまった。

 

 いつも通り、イズミカワソワの『絵の具』と共に3人がステージに姿をあらわした。そのとき、歓声とともに、失笑や苦笑のニュアンスを含んだどよめきが起こった。一瞬何が起こったのか分からなかったのだが、会場の上の方をよく観ると、控えめな大きさのLEDディスプレイが設置されていた。これまで、武道館公演を含め、ワンマンライブでは一度もディスプレイを設置してこなかった彼らだが、このサイズの会場になると後ろの方の観客への配慮として設置したのであろう。この演出で笑いが起こったのが、このバンドの歴史を象徴的に示していたと思う。とはいっても、それ以外の装飾等は一切無し。大げさではなく、250人規模のライブハウスと全く同じ、シンプルという言葉以外では形容出来ないような、バンドの地力がむき出しになるステージセットで、彼らは2万人の前に立ったのだ。

 

 そんなどよめきも止み、1曲目に演奏されたのが『サンポサキマイライフ』だ。イントロの掛け声で、会場の熱気は一気に高まった。この曲で始まった瞬間、このツアーのセットリストは絶対に攻めたものになると確信した。なぜなら、直近数年間を振り返ったとき、重要であろうタイミングでしかこの曲は演奏されてこなかったからだ。しかも1曲目から演奏されたとなると期待はうなぎ上りである。実際は期待のはるか上を高々と飛んでいくのだが。そのまま『徹頭徹尾夜な夜なドライブ』、『kid, I like quartet』と、これまでのツアーではラストを飾っていたような強い楽曲たちが序盤から連続投下され、3曲目が終わる頃には幕張メッセはすっかりライブハウスと化していた。

 

 「すげえ・・・人間ってすげえ・・・。」会場を見渡しながら、テーマパークに初めて来た子どもかよと思わず突っ込みたくなるような顔で斎藤(Vo./Gt.)そう漏らした。「One roll, One romanceツアー、今日が最終日です!僕たちもめちゃくちゃ楽しみにしてきたので、皆さんも自由に楽しんでいってください、よろしく!!」と、MCもそこそこに、鈴木(Dr./Cho.)の流れるようなドラムから『MR.アンディ』へ。会場左右端の天井に設置されたミラーボールがキラキラと光り幻想的だった。周囲を見渡すとそれぞれがそれぞれの動き方で楽しそうに踊っていた。しかし、本当に大箱がよく似合う曲である。多幸感でいえば、この曲がこの日最高の瞬間だったかもしれない。斎藤がエフェクターを踏み忘れてギターの音が出ない瞬間もあったが、普段絶対に隙を見せない斎藤でも緊張することがあるのだなと、人間らしい部分を垣間見ることが出来てむしろ拝んだ。

 

 次に演奏された『シューゲイザースピーカー』だ。<どんなヒットソングでも 救えない命があること いい加減気づいてよ ねえ だから音楽は今日も息をするのだろう>と強く高らかに歌い上げたが、歌唱力を急激に上げている今の斎藤がこの詞を歌ったとき、その説得力はとにかくケタ違いだった。この曲は今後もユニゾンの大事な武器になる気がしている。そのままノンストップで『リニアブルーを聴きながら』、『fake town baby』と、立て続けにシングル曲が演奏された。『fake town baby』は音源も凄いのだが、ライブで更に力を発揮する曲だなと感じた。一体全体何がとうなってどうやって弾いているのかがあまりに謎過ぎて、凄すぎるものを目の当たりにすると人間は何故か笑ってしまうという貴重な体験であった。

 

 その後、一呼吸置いて『クロスハート1号線(advantage in a long time)』、『flat song』とスローなテンポの楽曲が演奏された。2曲とも大好きな曲なので、次に演奏されるのはいつなのだろうかと考えると変な涙が出そうであったが、噛み締めるように聴き入った。先ほども書いたが、斎藤の歌唱力がえげつないことになってきているので、こういったスローテンポな楽曲たちの魅力が過去曲を含めて段違いになっている。この何曲か後演奏される『僕らのその先』なんかが最たる例だ。正直に言うと、『僕らのその先』はリリース当時からそこまで刺さっていなかったのだが、このツアーで聴いて大好きな曲になった。そんな手のひら返しがいともあっさり起きてしまうくらい、斎藤の歌のレベルは上がっていると感じた。

 

 9曲の演奏が終わり、ここでようやく少し長めのMCが挟まれた。内容は最近ラジオ等で連発されているスプラトゥーンでしょうもなかった(褒め言葉)ので割愛。そんなしょうもないMCの後、「シングルツアーなので、セットリストにも幅を持たせられるんですよ。なので、次は普段あんまりやらない曲を披露します」。そう言って演奏されたのがなんと『ノンフィクションコンパス』だ。『ノンフィクションコンパス』だ。この曲は、8枚目のシングルである『桜のあと(all quartets lead to the?)』の2曲目にカップリングとして収録されているのだが、何故カップリングに入れてしまったのかと彼らを恨むくらい、とにかく良い曲なのである。そして、この曲は、『桜のあと(all quartets lead to the?)』のリリースツアー以来、約3年以上もの間演奏されていなかった、待ちわびていたのだ。好きすぎるが故に記憶がほとんど無いのが悲しいが、この曲が鳴っている約5分間、自分の中では間違いなくあの会場が世界の真ん中だったし、それくらいこの曲は僕の心の真ん中を打ち抜いているのだ。  

 

 どうでもいい話に字数を割いてしまったが、その『ノンフィクションコンパス』からシームレスに『メカトル時空探検隊』、『パンデミックサドンデス』と全く違うタイプの曲が演奏され、使い古された言葉ではあるが、まるで大きなジェットコースターに乗っているかのようなスリリングで爽快な気分だった。

 

 少しの間が空けられ、ユニゾンのワンマンライブではもはや恒例となっているセッションが披露された。個人的にはこれまで披露されてきたものの中で1,2を争うくらい好きなセッションなのだが、とにかくポップなのだ。誤解を恐れずにいうのであれば、ディズニーランドのパレードかのようなポップで開けていて、人懐っこいメロディだ。そのセッションの間には、3人それぞれのソロパートも用意されていたのだが、中でも鈴木のドラムソロは毎度のことながら圧巻だった。これはドラムソロ以外にも言えることなのだが、鈴木のドラムはライブを見る度にどんどん魅力的になっていると思う。ドラム自体に詳しくないためどう上手くなったかの説明が難しいのだが、とにかく手数が増えてバカテクになっている。しかし、それが演者のエゴではなく、ちゃんと観客に寄り添った、見た人に元気を与えるものになっているのが今の鈴木の強さなのだろう。ある時まで、ユニゾンの魅力は「田淵の作るキャッチーな楽曲」と「斎藤の歌声」と言われ、鈴木のドラミングに焦点が当てられることは少なかった。言ってしまえば相当歪な三角形だったのだ。しかし、今となっては鈴木のドラミングに対する賞賛の声を見かける場が圧倒的に増えた気がする。田淵の作る曲だってどんどんクオリティが上がっているし、斎藤の歌だって上で書いたとおり物凄いスピードで上手くなっているけれど、それを超えるスピードで鈴木のドラムはどんどん魅力的になっていると思う。今やユニゾンは歪さのない綺麗で大きな正三角形のように見える。

 

 三人のソロタイムも終わり、これでもかというほどテンポを上げて3人の演奏力を見せ付けまくったとことでセッションも終了。「もうちょっとやります!」という斎藤の宣言から次に繰り出されたのが『Silent Libre Mirage』だ。ここから最後までの流れは完璧としか言いようが無かった。『Silent Libre Mirage』はライブになると音源とはまた違った魅力が発揮されるなと思う。ライブで聴けば聴くほど音源もまた好きになり、音源を聴けば聴くほどまたライブでも観たくなるような曲だ。

 

 そこから今ツアーのタイトルにもなっている『10% roll, 10% romance』へ。この曲がリリースされたとき、個人的には『桜のあと(all quartets lead to the?)』の後釜を担えるような華のある曲がようやく出てきたかもしれないと思ったのだが、その予感はおそらく的中していると思う。会場の盛り上がり方、高揚感みたいなエネルギーがやっぱり他の曲と比べても段違いだ。リリース当時はメンバーですら心配していた演奏も、今となっては音源以上の意味不明なテンポで演奏しているし、最後の<有史以来 僕だけで十分だからさ>というフレーズも斎藤は音源以上に伸ばして歌っちゃってるし、もうこの人たち本当に追いつけないところまで来ちゃったなぁなんて思っていたら、そのまま休みなしに『誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと』へ。「え、この曲大ヒットシングルでしたっけ・・・??」と思わず笑ってしまうくらいの盛り上がりだ。実はカップリング曲なのだけれども。この曲は田淵自身がとても大事にしている曲で、10周年記念アルバムに入っちゃったり、カップリングとは思えない明らかに重要なタイミングで披露されたりしてきた。そんなことを繰り返しているうちに、いつしかファンの中でも大事な曲になっていったのだろう、正に田淵の術中というところだが、めちゃ良い曲なので仕方ない。この曲の2番のサビに<INGで少しずつ 少しずつ やればいいんです>という歌詞があるのだが、まさにこれまでのユニゾンの軌跡を表していると感じた。決して爆発的にファンを増やしてきたバンドではないが、結成から15年弱をかけ、少しずつでも確実にファンを増やしてきた結果、2万人もの観客を集めることができるバンドになったのだ。アウトロでは短いが多幸間溢れるセッションが繰り広げられ、この日最高潮に感慨にふけっていると、今やロックファンのアンセムとなったあの曲のイントロへ突入、『シュガーソングとビターステップ』だ。派手な位置ではないものの、会場の熱が頂点に達するこのタイミングにこの曲を持ってくるあたり、あのセトリおじさんには感服だ。2万人の観客がこの曲で踊っている姿を見て、やっぱり彼らをここまで連れて来たのはこの曲なんだなぁと思った。売れるのが良いことか悪いことかはいろんな考え方があるけれども、彼らの音楽がこれだけの人に届いていることは喜んで良いことのような気がした。その後、「千葉最高に楽しかったです!ラスト!」という言葉から2ndアルバム『JET CO.』のラストに収録されている初期の大名曲『23:25』が演奏された。<帰ろう世界へ>というフレーズが、ライブが特別な場所であることを逆説的に説いているように感じられ、ラストにピッタリな楽曲だ。そんな『23:25』とともに、本編は大団円で終了した。

 

 本編終了後、会場からのアンコールを求める大きなクラップに応えて再び姿を現した3人。「いつも通りのライブをする。」という事前の宣言の通り、最後まで田淵と鈴木は一切喋らなかったが、2人の思いは全て斎藤が観客に分かりやすく伝えてくれているのだろう。アンコールのMCでも、幕張メッセという大きな会場でやることになった経緯、大きい会場でやってもこれまで通りいい曲を作って全国をまわり、ファンと顔を合わせて良いライブをし続けていくサイクルは決して変わらないことを、何気ない口調だけれども丁寧に説明してくれた。

 

 そんな胸が熱くなるMCの後、『Invisible Sensation』が演奏された。個人的に、良いMCの直後というのはそのライブで1番華のある位置だと思っているのだが、その位置にこの曲が来たのが本当に嬉しかった。冒頭の<高らかに 空気空気 両手に掴んで>の歌声が、澄み切っていながらも強いパワーに溢れていて、会場全体が息を飲む雰囲気を感じた。

 

 曲が終わり、2万人規模の会場が一瞬完全に静まり返った。その静寂を切り開くように始まったのが『RUNNERS HIGH REPRISE』だ。この曲は、田淵が敬愛してやまない『the pillows』に対するリスペクトが詰まった曲だ。<確かめては 今もどうにかやっているよ 転んでもさ 明日もどうにかやっていくよ>、<鼓動はちゃんと聞こえたから同じ様に響かせて今日まで来た>と、『the pillows』の姿を一つの羅針盤として、苦難がありながらもここまで歩んできたのだなということが伝わってきて笑顔にならずにいられなかった。そして、斎藤の「またね!」という言葉からラストの『シャンデリア・ワルツ』へ。どのツアーでも毎回セットリストに入ってくるこの曲だが、何回聴いても飽きないどころかどんどん好きになっている。そして、何よりこの曲はラストを飾るのがよく似合う曲だと改めて感じた。客電が点灯する演出も、武道館公演を彷彿とさせる、ファンにはたまらない演出だった。この曲を聴きながら、彼らの魔法にかかって2万人も観客が集まったという事実に再び感極まってしまい、最後は誰にも見せたくないくらいにはしゃいでしまった。最後のサビに入る前の<世界が始まる音がする>のタイミングで無造作にイヤーモニターを外した斎藤の耳にはどんな音が聴こえ、どんな景色に見えていたのだろうか。このバンドの中で、大きな会場でライブをすることに一番抵抗が無い彼にとって、口には出さないけれども、もしかしたらそれは最高の瞬間だったのかもしれない。何でもなさそうな想いを握ったファンが2万人集まった会場はそれはもう、めちゃくちゃに輝いていたのではないだろうか。少なくとも観客側からはめちゃくちゃ輝いて見えた。本当に最高のライブだった。

 

 どんなに大きい会場だろうと一切普段と変わらないライブを見せてくれた彼らにこれまで以上の信頼感を抱き、終演後もしばらくその場から動きたくないくらいの余韻を感じていた。それでもやっぱり、いつもの規模感でのライブも大好きだということも改めて強く感じた。その規模感で観ることができる4月からの全国ツアー、今から本当に本当に楽しみだ。

 

 

UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2017-2018「One roll, One romance」2018年1月28日 幕張メッセ国際展示場1-3ホール セットリスト

  1. サンポサキマイライフ
  2. 徹頭徹尾夜な夜なドライブ
  3. kid, I like quartet
  4. MR.アンディ
  5. シューゲイザースピーカー
  6. リニアブルーを聴きながら
  7. fake town baby
  8. クロスハート1号線(advantage in a long time)
  9. flat song
  10. ノンフィクションコンパス
  11. メカトル時空探検隊
  12. パンデミックサドンデス
  13. 僕らのその先
  14. Silent Libre Mirage
  15. 10% roll, 10% romance
  16. 誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと
  17. シュガーソングとビターステップ
  18. 25:25

<アンコール>

  1. Invisible Sensation
  2. RUNNERS HIGH REPRISE
  3. シャンデリア・ワルツ